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椎葉神楽

椎葉神楽

椎葉神楽


椎葉神楽は椎葉村の26の集落に伝わる神楽の総称で、銀鏡神楽、高千穂神楽と同様、国の重要無形民俗文化財に指定されている。

他の二つの神楽の指定については、銀鏡神楽は他の米良地域に伝わる神楽の中から銀鏡神楽に限ってのことで、高千穂神楽は高千穂町を中心とした県の西北部から北部に伝わる約20の神楽となっている。

椎葉神楽と同様に複数の神楽を対象として指定を受けた高千穂神楽は、集落ごとに特徴はありながらも番付はほぼ統一されているのに対して、椎葉神楽は集落によって番付の編成はまちまちで、それぞれに独自のものになっている。

椎葉では神楽のことを「冬祭り」と言う。
椎葉神楽は銀鏡神楽や高千穂神楽に比べると、人々のお祭りという色彩がより強く、さらに神楽が集落を統一した番付にならなかったこともあって、宮崎県で最も古風な神楽として評価されている。

このページでは椎葉神楽の中から「尾前神楽」を紹介する。


尾前神楽は夕刻(午後7時ころ)から尾前神社の拝殿において「板起こし」から始まる。

尾前神楽を体験すると「唱」が多いことに気がつく。
村の長老にその感想を言うと、「調査に来た早稲田の先生もそう言いよった」と応えてくれた。

村内には数多くの唱教本が残っているそうで、この「板起こし」も神楽子たちが静かに唱える祭文の中で厳かに進行していく。


「板起こし」は椎葉神楽に共通してして見られる番付である。

御神屋の中心に低い祭壇を置いて、その上に供えておいた猪の頭を俎板に下ろして山刀で肉を切り、竹串に刺す。

竹串に刺すと松明の火で肉を焼く。
松特有のススのせいもあって肉は黒く焦げていく。

「安永詞」、「御神屋詞」と唱文が続く番付の間に、祝子や参拝者に焼けた猪肉が分けられる。

これは神に供えた供物の下さりものを皆でいただくことで村の固めの儀式を行うものだが、神楽の奉納に参拝するよそ者に対しても肉を分けてくれる。




「御神屋詞と「御垂止」の間に「神招座」という、舞ではなく文字通り神を座に招く儀式がある。
神を座に招いた上で、「御垂止」、「一神楽」と進むと祝子の座が設けられ、膳が配られる。
村の有力者や招待客などから座に着いていく。

一般の参拝者はその膳が終わるまで外で待つのかと思っていると、「そこのお兄さんも上がってください」と言う。
恐縮して再び上がると年配の男性が「もっと上に行け」と言う。

座に着くと、私のような初めて参拝するよそ者にも地元の人と同じ膳と、真新しい竹の徳利が用意された。
「御初穂」をもう少しはずむべきだったと内心で悔いた。

「大神神楽」になって膳が開かれ酒や焼酎も注がれて、満場「サシツササレツ」状態になった。
座の全体が賑やかくなってワイワイガヤガヤと見慣れた者同士の話が弾みだした。

椎葉の神楽はやはり祭りだ。
神に神楽を奉納して神と遊び仲間と仲良く遊ぶ。



椎葉神楽の神楽子には若い人が多いことでも知られる。

宴が始まったところで「子供神楽」が披露された。
女児が神楽を舞うことができるのは小学生の間だけで、言うまでも無く神楽は女人禁制。

子供神楽は太鼓も舞いもともに優れたもので、特に舞いは成人の男性が舞う大人神楽には見られない、若いしなやかな体で舞う優美さがある。

太鼓や舞い手の紹介の時に「爺ちゃん」達も紹介されて、立ち上がってヤンヤの声援に応えていたが、どの顔も満面の笑みで、孫の神楽を披露する晴れの舞台が嬉しくて溜まらない表情。

子供達に向かって沢山の「オヒネリ」が飛び交う。
子供達の成長を、神楽舞を通してみんなで祝福しあう、そんな大人たちの寛い気持ちが場をうねる。

椎葉(尾前)に生まれて祖父や父が舞ってきた伝統の神楽を舞う。
生まれたときから肌で感じてきた自分達の神楽や村に対する誇りが、その自信たっぷりの笑顔から読み取れた。


「森ノ上」では、二人の神楽子が弓を持って舞う。
舞が終わるとそのまま御神屋に留まって差し向かいになり、お互いに弓の弦を引いて弓の輪をつくる。

「お祓いじゃ」と、赤ん坊を抱いた女性を先頭にぞろぞろと列を成して御神屋に上がり、赤ん坊は神楽子の手によって、また大人たちは腰を屈めて弓の輪を潜る。


村の長老にお酌をしようと差し出すと「後で出番があるから」と丁寧に断られた。
昔は舞っていたいうその人は神楽子にしては年齢が違いすぎると思い、どこの番付で出られるのかを尋ねると、「後の楽しみ」だと言う。

いつしか長老が姿を消して、随分時間も経過して、「地固め」が終わると、村の実力者のような方々が御神屋に上がっていって何やら口上を述べる。
何を言っているのか聞き取れないが何かをお願いしているのが分る。

これが尾前神楽の特徴の一つである「生魂殿」である。

「地固め」は、伏せた太鼓を挟んで4人の神楽子が大小の刀を抜いて向き合い、祭文を唱えながらするもので、太鼓の上にはゴシイと呼ばれる酒を入れた壺を載せていて、そばに宮司が着いている。

「只今御生魂様が麻苧を持って布を織って白張(しらはり)をつくり申した。この御宝を願い下げておんたもり申せ」とシュサの口上があると、我こそはと思う者達が生魂殿の代役の宮司に御宝を貰い下げるべく色々と口上を述べるが、どれも一向に願いが叶うように見えない。

何人か失敗に終わったとき、紋付袴で正装した一人が供を多く引き連れて御神屋に上がって行って正座をすると深く頭を垂れ、朗々と口上を述べはじめた。

「後で出番がある」と言っていた長老だったが、今で言う村長選挙の演説のように、村の現状を述べた上で、村の発展を約束するような内容に聞こえた。

口上を一通り聞いた宮司が「氏子崇敬者一同に一粒万倍、弓矢の御繁昌とて、この御宝を授くる」と述べる。

ゴシイの入った宝の壺を頭上に捧げて喜びながら御神屋を下りると、供の者や台所役が大いに喜んで何やら踊りながら一騒動する。

言うまでも無くこの日に誰がお宝を願い下げることができるかは決まってのことだが、この生魂殿も何百年と受け継がれてきた祭り(神楽)の一部分で、ときおり滑稽な問答が引き起こす爆笑などは、感謝や祈りに娯楽も織り込んだ寸劇を見る思いがする。

ここでも御宝の壺に入ったゴシイは参拝者に配られた。
昔、酒は飲むとは言わず喰らうと言ったと思うが、(少量ではあったが)喰らうという感じの酒を飲んだ。

 1番 板起こし
 5番 一神楽
 9番 幣の手
13番 地割ノ上
17番 泰平楽
21番 オキエ・ごつ天王
25番 火の神神楽


 2番 安永詞
 6番 大神神楽
10番 しめほめ
14番 地割ノ下
18番 手力
22番 稲荷
26番 神送り

 3番 御神屋詞
 7番 花の手
11番 森ノ上
15番 地固め
19番 鎮地
23番 芝引き


 4番 御垂止(おだりやめ)
 8番 扇の手
12番 森ノ下
16番 生魂殿
20番 カンシン
24番 日月の舞

関連ページ : 高千穂夜神楽  銀鏡神楽

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